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1997年9月30日 (火)

日川(納竿釣行)

ついに禁漁前日。東京近辺では神奈川県の10月14日までという漁期はあるが、やっぱり9月30日は今年最後の渓の日という感が強い。最後の日にどの川に行くか、実は中央自動車道を走り、大月付近を通過するまで決めていなかった。とりあえず山梨県という事だけは決めていたのだが、渓の選択は走りながら考えようと思った。

相模湖を過ぎ、道志川、秋山川、鶴川、葛野川、桂川、ああどこにしよう。第一、午前7時に家を出たんじゃ、どこも先行者でいっぱい。この時期はやはり沢に分があるから、今日も貧果だな・・・。猿橋発電所を見ながら、ふと日川が頭に浮かんだ。釣り場案内の本が出て、釣り人が激増し、一気に魚影を薄めた日川。なぜその日川なのかは自分でもわからない。

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竜門峡の下で出合う焼山沢、水量OK、しかし先行者車2台、林道の奥にも入っているだろうから、少なくとも3人以上。嵯峨塩付近も駐車スペースごとに1~3台が停車。車を覗くと大部分が釣り人らしい。ついにダム手前のペンションすずらんまで来てしまった。期待のタキ沢にもすでに人が入っているとすずらんの御主人が教えてくださる。まあ、他人の後でもいいか。そう割り切って、女将さんから入漁券を買った。

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いちのたいら橋から本流に入渓。日陰の岩に濡れた足跡があるが、かなり乾いている。おそらく朝一番に誰かが入ったのだろう。沢はイワナだがここはアマゴだから、居れば出るかもしれない。橋から20m上流のボサの下で小さ目の1尾が出た。いるいる。やはり瀬尻に定位している。少し遡って2尾目、さっきのよりちょっと大きいが、発育の遅れた2年魚と言った感じ。

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近郊の渓にしては絶好調で、200mほど釣って10打数5安打。これでこそ「ボ菌」のお祓い釣行と内心喜ぶ。今日は珍しくレベルラインが言う事を聞いてくれる。私の場合都筑師匠からも指摘を受けたが、振り込みが下手。ところが今日はうまくいっている。

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にんまりしながら遡行していると、先の浅瀬できらりと光るものがあった。なんだろう?と目を凝らしてみると、雌のアマゴが産卵床を掘っている。しばらく置いて、また全身をくねらせながら尾鰭で河床を叩いている。 雌アマゴの傍には3尾の雄アマゴが体を摺り寄せている。雌が河床を叩き始めると少し離れるが、雌が止まるとさっと傍に寄ってくる。

目の前に展開されている営みを見て、釣欲は消え去ってしまった。 そのうち石の下で尾鰭を覗かせている雌を発見。近寄っても逃げない。石のエゴに頭を突っ込んだまま尾鰭だけを横に振っている。私は手を伸ばし、そのアマゴに触れた。掴まえようかと思ったが、そうしなかった。そうする気になれなかった。 竿をたたんだ。

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しばらくはアマゴを観察しながらの遡行。いくぶん婚姻色のでた個体も居る。こうしてじっと水の下に目を凝らしていると、いろいろ見えてくる。 これより上流はダム工事のため立ち入り禁止と書かれたところまで、入渓点からわずか300mだったが今年の最後を飾るにふさわしい釣行となった。

脱渓してペンションすずらんに立寄り、昼食をとる。 ちょうど正午だったので、ツーリングのライダーや、キノコ採りの人々でにぎやかだった。 他のお客がすべて出て行き、私が最後の客となった。

「お客さん、釣りの人は釣りだけすると帰ってしまうけど、山がお好きならキノコやら山菜やらを採られると良いですよ。釣りは今日までですが、10月に入ったら、キノコは全盛だし、もし不安なら、採ってこられたやつをウチで選別してあげますよ。」

女将さんは親切な方である。朝霧さんも今年ここに来てたと思うけど、バイクの人、登山の人、山の幸の人、釣りの人と、ここに集まってくる理由がわかる。
「また来年もいらしてくださいね。」
「どーも、お世話様。」
と私が応えると、すずらんの食堂の片隅で飼われている九官鳥が 「ドーモオセワサマ」と繰り返していた。

1997年9月30日  山梨県 日川

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